店主の一口メモ
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世の中マグロブーム。トロブーム。難題を抱える漁師たちのことなど頭になく、高級鮨屋へ回転寿司と連れ立って行く。それにしても、マグロのトロは全体の10%ほどである。それに大人も子供も群がる。
テレビのグルメ番組では、『究極のマグロ丼』を紹介していた。大間の「カマトロの霜降り」「腹カミの蛇腹」「皮ギシのネギトロ」「大トロ炙り」を盛り上げてなんと1万円だという。こんな脂だらけの丼なんて見ているだけで気持ち悪くなる。これはマスコミに取り上げてもらうためのパフーマンスか。番組スタッフからの注文か。
「うちの孫はトロしかたべないの」それを自慢げにしているおばちゃんの話もよく聞く。このままじゃヘンなマグロの世界が、当たり前でまかり通ってしまいそうである。
食文化のねじれ現象。いかに情報社会とはいえ、食べる人たちはTVやネットの情報を鵜呑みにしすぎていないだろうか。ボクたちが若かったころは情報が少なく、マグロの真の姿なんて知らなかった。マグロそのものが正しく分かってないし、漁師も河岸も仲買いも流通もまったく白紙に近い。それでも正しい情報を知りたい人は足しげく鮨屋に通い、日本料理屋で板前さんから魚の蘊蓄に耳を傾け、漁師など専門家に近づく努力をして真の情報を作り上げてきたつもりである。粘り強く格闘してこそ正しい文化を形成するのだと思う。
先日、NHKテレビの「プロフェッショナル」に築地のマグロ仲買人の藤田浩毅さんが出演していた。番組中、彼は熱く語っていた。それは『ネットはあくまでうわべの情報』ということだ。河岸に上がった数百匹の中からでも、自分の納得のいくマグロがセリに出ていなければ3日でも4日でもセリ台に上がらないという。意地の買い付けに本物のプロの姿を観た。
名だたる鮨屋の名人大将が、彼の店「藤田」からしかマグロを仕入れずに何日も待つという。プロとプロの名勝負を見せ付けられるようで、釘ズケになったものだ。
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夕暮れ時、見知らぬ町で何気なく入った居酒屋に驚かされることがある。
路地裏にぽつんと提灯を灯す小さな店。縄のれんをくぐり「いらっしゃい」と威勢のいい掛け声に迎えられてカウンターに腰をおろす。さっと熱いおしぼりが出て、手を拭きながら店内を眺める。壁一面に張られたこだわりのお品書き。旬の魚を中心とした肴。選び抜いた地酒と焼酎。どれも納得いく値段で主人のこだわりが伝わってくる。
一日の仕事を終えた勤め人に「お帰り」とおかみさんが笑顔で迎える。現役を退いたご近所衆がゴルフのスコアカードをひろげ、盛り上がっている。客と店があいまって生み出した活気が溢れかえっている。みんな元気に呑んで食べて笑っている。
調理場から立ち上る焼き魚の煙と匂い。何ともここにいるだけで幸福感がじわりと心の奥から湧き上がってくる。こんな店が近所にあるなんてこの土地の人は何と幸せか。
居酒屋は高級な料理を出すべきではないと思う。手間をかけ心が入ったさりげない肴が何よりもうれしい。小さなグラス一杯で1500円もする大吟醸なんてとんでもない。懐具合を気にしなくても気軽に通える店。ちょっと頑固そうな主人と、優しそうなおかみさんと、常連たちが長い年月をかけて作りあげてきたいぶし銀のような店。
最近、こうした居酒屋が長引く不況と後継者難などの理由で店じまいしている。それに代わって改造してオープンした店はどこも調理場は奥に引っ込み、小じゃれたカフェー風になってしまった。駅前は居酒屋チェーンが乱立し、安い料理と飲み放題で客を奪い合っている。人情酒場の灯が消え、町の財産が一つ一つ失っていくようで悲しい。














